COP26開催都市に、日本に着想を得た森が根づく

グラスゴーの〝都市の森〟

国連の主要な気候変動会議であるCOP26の開催国スコットランドの都市グラスゴーには、日本に着想を得た五つの〝都市の森〟がある。

いわゆる〝小さな植林地〟(タイニー・フォレスト・プランテーション)は、今年亡くなった日本の植物学者、宮脇昭の仕事にその基礎をおいている。宮脇は、自然林では通常数百年かかるところ、わずか数十年で生長する、小規模で密集した植樹の方法(メソッド)を開発した。

これらの森は、開催都市における肯定的な環境影響に向けた努力として、この金曜〔一一月一三日〕に終了予定の二週間の国連サミットに先立って発表され、会議で取り上げられた様々な大きな話題の中でも、森林破壊という話題とともに取り上げられた。

森は二酸化炭素の天然の貯蔵庫であり、森の消失と森への損害は、生物多様性を減少させるだけでなく、気候変動の主な原因であることがわかってきている。WWF―UK〔世界自然保護基金イギリス〕は、地球温暖化の約一〇パーセントは森林破壊によるものと推定している。

小さな森の敷地はそれぞれ、テニスコートの大きさ、つまり約二〇〇平方メートル以下で、六〇〇ものさまざまな、土地に根ざした苗木が混植・密植されている。

混植・密植された自然の森

樹種の選択と植え付けの方法論は、一九六〇年代と一九七〇年代に宮脇が行なった研究に基づいている。彼の〔関係の〕ウェブサイトによると、植物学者である彼は、自然の森は日本ではまれであるが、通常、土地が法律で保護されている神社や寺院の周りにのみ残されていることを発見した、とある。

宮脇は、その土地に根ざした木や草からなる自然の森は、少数の類似種のみで構成されていることが多い人工林よりも、生態学的に多様で回復力がある、ということを観察した。

彼は、これは密植された苗木が養分を奪い合って、迅速に、健康的に森の成長を促すのと同じ生態学的効果が、小規模に再現されたものである、と理論づけた。

〝小さな森〟(タイニー・フォレスト)というアイデアが誕生して以来、そのコンセプトは世界じゅうに広がり、日本から南米、南ヨーロッパというさまざまな環境で成功を収めている。

世界に広がる〝宮脇メソッド〟

イギリスで宮脇に触発された森づくり活動を主導している自然保護団体〈アースウォッチ〉によると、このアイデアは二〇一〇年代、トヨタの元従業員であるインドのエンジニア、シュベンドゥ・シャルマによって「再び活性化」された後、ヨーロッパで注目を集めた。

シャルマは、トヨタのバンガロール工場で宮脇昭が行った〝小さな森〟についての講演会に参加し、ついには慈善団体〈アフォレスト〉Afforesttを設立して、このアイデアをさらに世界に広めた。

シャルマの助けを借りて、オランダの環境グループIVNは、宮脇の方法論をヨーロッパの穏やかな気候に適応させ、二〇一五年から二〇二一年の間に、一〇〇以上の場所で植樹に成功した。

オランダのヴァーヘニンゲン大学が実施した二〇一七年の調査では、二地域の植樹地において、動物・植物ともに数と種類の両方について「近くの森と比べて生物多様性が高くなっている」ことがわかった。

二〇二〇年に発表された同大学の研究では、五年以下の森であっても、年間平均一二七・五キログラムの二酸化炭素を吸収・隔離することが明らかにされた。

〈アースウォッチ〉のシニア・プロジェクト・マネージャーであるベン・ウィリアムズは、〝小さな森〟は、その他の植林計画とは異なり、「高い成功率」を有しており、都市においても実現できるため、環境悪化に取り組むのに良い方法である、と述べた。

ウィリアムズは、環境への影響に加えて、コミュニティに緑を提供することの重要性を強調した――「人間が自然と結びつくこと、そして人々が家のドアを開けたらすぐこうした環境にアクセスできることの利点は、生態系への影響と同じくらい重要なのです」。

(編集部訳)
https://english.kyodonews.net/news/

 

土地固有のふるさとの森づくり

横浜国立大学名誉教授/横浜市立大学特任教授/国際植生学会元副会長
藤原一繪

さまざまな〝森づくり〟の方法

「森をつくろう」と呼びかけられたら、どのような森をつくると考えますか?

森づくりには様々な方法がある。毎年行われる全国植樹祭、これは林野庁によるスギ、ヒノキの商業林を踏襲することが多い。世界ツアーなどによる相手の国が欲する樹木の植栽、これから同じ手法ではできないと思うが、明治神宮のような一〇〇年後を想定した森づくりなど、多くの森づくりがある。

スギやヒノキの商業林は、一本一本が優良でなければいけない。細い木や曲がった木は不良として切られる運命にある。〝全て良い子〟の画一的社会をつくるのが林業だ。林業研究者や林業に携わる方々は、「良い森」とは〝まっすぐな良い子だけの森〟を想定していられる。したがって、一本一本のために雑草取り、下枝刈りを行ない、それぞれの木に十分な手をかけて育て上げる。

林内にはスギやヒノキと成長競争する高木・亜高木、時には低木もない林になる。反対に一五〇年伐期を想定している紀伊半島の林業では、亜高木、低木、林床の草本植物と共生させた社会をつくり、健全な世界にしている。

そのような森を目指す林野庁が、二〇二一年六月に発表した「森林・林業基本計画」の二四頁に、「(12)国民参加の森林づくりなどの推進」として、「一〇年間で一億本の植樹を目指す」とうたっている。針葉樹を中心に植樹してきた林野庁としては画期的な計画を発表した。

管理不要の〝ふるさとの森〟

さて、いわゆるindigenous forest―その土地の〝ふるさとの森〟である自然林は、森そのものが循環して、何百年、何千年も生き延びてきた森である。

この森に注目して、生物界では互いに競争し、我慢して、共生するという生態学の理論を基盤に、農業理論をプラスして、〝土地固有のふるさとの森づくり〟を提唱したのが、宮脇昭横浜国立大学名誉教授である。

教授は、自然林構成種の高木や亜高木の苗木を、よく耕した土壌上に直接植えつけるという、誰も考えが及ばないことをやってのけた。

しかも、三年毎に部署を変わる担当者のために、三年で管理不要となることを想定して考え出した。苗木を植えるのは地域の子供たち、家族、社員一丸となって植える。成長途上では、林業的に不良林と言われるひょろひょろした樹木が密生した林だが、五年、一〇年経つ中に、太くて背が高い樹木、細いが林下の層を形成する樹木、低木のまま我慢している樹木など、多層をつくりあげる。

さらに鳥が運んだ種子から成長した低木や草本が生育する。後は森の循環に任せればよい。次の氷河期まで森として生き延びる森である。

本書は、土地固有のふるさとの森indigenous forestづくりを、その歴史を追い、基盤理論をたどり、数々の質問にこたえながら、これから森づくりを行ないたい方々や、すでに森づくりを行まってこられた方々に、再度考えていただくための指南書にしていただきたく書かれた。

森林は温暖化ガスを吸収する

二〇二一年ノーベル物理学賞を受賞された真鍋淑郎博士の「バケツ理論」には、緑の二酸化炭素吸収量は取り入られていない。来日講演会でお会いした際に、なぜ地球上の森林の固定量をとりいれないのかお聞きしたところ、不確実なデータのためネグレクトされたとのことである。

しかし一九九七年の「京都議定書」の三条三項で、一九九〇年以降の植林と再植林、森林伐採だけを認めることになった。二〇二一年、英国グラスゴーで開催されているCOP26では、世界の一〇〇人以上の首脳らが十一月一日遅くに共同声明を発表し、二〇三〇年までに森林破壊や土地の劣化を終わらせると表明した。

早稲田大学森川靖名誉教授によると、二酸化炭素吸収だけ考えるのであれば、ユーカリを植林するのが手っ取り早いとのことである。成長が早い、いわゆる早生樹は、一時的固定量が高い。しかし長持ちしない。ヨーロッパで、「その土地固有のふるさとの森indigenous forestづくり」は、針葉樹だけの単純な森よりも、成長と共に生物多様性も高くなる、狭い面積でミニフォレストが完成し、しかも初期成長による二酸化炭素の固定量が高いということで注目されている。

COP26の会議で話題になったグラスゴーでは、日本に着想を得た五つの都市林がつくられている。一般に言われるタイニー・フォレスト・プランテーションは、宮脇方式を基盤にしていることが、宮脇先生ご逝去の記事とともに、共同通信の英語版で紹介されている。さらに同記事は「ジャパン・タイムズ」や「ザ・マイニチ」に英語で紹介されている。

森林は二酸化炭素の自然貯蔵庫であり、森林の喪失と被害は、生物多様性を減少させるだけでなく、気候危機の主な原因であることがわかっており、WWF―UKは、森林破壊が地球温暖化の約一〇パーセントを占めると推定していることを合わせて載せて、小さな森づくりも有効であり、宮脇メソッドの森づくりを評価している。

(『森をつくろう!』[30頁参照]より収録)